今どきのヒット曲を聴きながら、メールの返事を書き、合間にSNSに投稿。返信したら、コーヒーをすすりつつ、中断していたプレゼン資料の作成を再開。
その間も、画面右下では縮小サイズの旅行動画を無音再生。動画が行きたかった観光地の映像に切り替わったので、画面を拡大してしばらく見入ります。
就業時間が終わって、ふと思ってしまいます。「あれ、自分は、今日何をしていたんだっけ? あれもこれも進めたかったのに、全然進んでいないような気がする……」
マルチタスク、実は不可能だった
同時並行的にタスクを処理するマルチタスクの是非は、かなり前から議論されていますね。
もはや、ビジネスパーソンの永遠のテーマのようになっています。最近も、マルチタスクを推奨する論調の記事が出たかと思えば、否定的な言説もよく見かけます。
でも、決着は既についています。冒頭のエピソードが象徴するように、マルチタスクにいいことは1つもありません。
こう力説するのは、オンリー・コネクト・コンサルティング社のCEO、デボラ・ザック氏。著書『SINGLETASKING』の邦訳版『一点集中術』(ダイヤモンド社)の冒頭でザック氏は、次のように書いています。
マルチタスクは状況を改善するどころか、むしろ問題を悪化させる。
そもそも人間の脳は、一度に複数のことに注意を向けることができないのだ。
(本書49pより)
このすぐあとのページには、「マルチタスクではなくタスクの切り替えをしているだけ、何かをしながら別のタスクに集中することができない」など、複数の科学者の言葉があり、説得力を強めています。
つまるところ、科学的にみてもマルチタスクは「不可能」というのが最終結論なのです。
一度に取り組むタスクは1つだけ
でも、こう言われると反論したくなるのが、人間の性(さが)でしょう。
「自分は毎日、抱えきれないほどタスクがあって忙しい。マルチタスクをしなければ、やっていけないよ~」というふうに。
ですが、それこそが多忙さの元凶かも。『一点集中術』では、次のように書かれています。
マルチタスクをこなそうとすると、瞬時──0.1秒未満──に集中する対象を切り替えるよう、脳が強要される。すると遅れが生じ、切り替えのたびに集中力が落ちる。
こうしたことが積もり積もると、貴重な時間が無駄になるうえ、知力が衰える。
(本書63pより)
マルチタスクこそ、忙しさを解決するカギ……という誤った認識をまず改めましょう。
では、日々の多忙さに、どう立ち向かうべきかと言いますと──答えは、シングルタスク、つまり一点集中術です。
すべきことがたくさんあっても、「一度に1つの作業に没頭すること」。これに尽きます。ルールは簡単。今のタスクを終えるか、1つの区切りがつくまで、次のタスクに着手しないことです。
シングルタスクこそ、ゾーン突入への近道
シンプルを極めたかのような一点集中術は、大きなメリットがあります。
それは1つのことに集中することで生まれる、内からの「強いエネルギー」と「鋭い集中力」です。
言い換えるなら、「ゾーンに入る」とか「フロー体験」とも呼ばれる、没頭の境地に入りやすくなるのです。こうなると、仕事でも作業でも快速でこなせ、かつ質の良いものができあがります。
「ゾーンやフローなんて、一流アスリートでなくては無理」と、思い込んでいませんでしたか? 実は、そうでもないようです。ザック氏は、1つのことに取り組めるなら、その状態になれると書いています。
もちろん、タスクによっては、どうやっても集中できないものもあるでしょう。上司から命令されて、適性がないのに仕方なくやる仕事では、ゾーンに入るのは困難です。
でも、1日中そんな仕事ばかりではありませんよね。自分が得意な仕事、性に合っている仕事は、一点集中がしやすいはずです。そのときは、脇目もふらずシングルタスクに徹することです。
また、一点集中術には充実感や達成感を味わえ、ストレスや不安をはねのけるといった心理的メリットもあります。実践しない手はないでしょう。